2014年8月1日金曜日

症例11 1か月続く咳で見つかった転移性肺腫瘍  2012年4月26日 記事

4月26日(木) 曇、強風

 風の強い朝ですが、気温は高く桜も散り始めています。
 
 ここのところ、胃腸炎と咽頭炎の患者様が散見されます。うがい、手洗い(マスク)は何時の季節も必要なのかもしれません。

 今回は、紹介先の病院でまったく予想外の診断が下された慢性咳の症例についてです。

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 アルバイトに行っていた診療所でのこと。

 中肉中背の高年女性がインフルエンザにかかってから1か月続く咳を訴えてある土曜日のお昼前に外来を初診しました。職員は帰り支度を始めていましたが、具合が悪そうなのでまずは診察させていただきました。

 数年前から近医で高血圧を治療中、住民検診などは受けていなかったそうです。

 1ヶ月前インフルエンザの治療後に咳が出始めた時に風邪薬をもらったものの効果がなく、そのうち良くなるだろうと様子を見ていたそうですが、一向に症状は改善せず全身倦怠感、呼吸困難を伴うようになってきたとのことでした。

 診察時、熱や痛みの訴えはなく聴診でも痰が絡むような音は聞こえず心雑音もなし

 経皮的に測定した酸素飽和度は95%とやや低下気味でした。

 血液検査では軽度の正球性貧血と、高度の炎症反応白血球の著しい増加をみとめましたが、胸部レントゲン写真でははっきりした肺炎は認められず

 ただ、太っていない体格の割に横隔膜が拳上しており、心臓が寝ている形になっており、やや肺うっ血っぽい印象を受けました。

 気管支炎+心不全か??とそれ以上の鑑別診断を考えられませんでした。

 症状の割にデータが悪く、もしも重症化していると困ると考え、即、救急受け入れ可能な病院を探しましたが、今のご時世、土曜の昼過ぎになかなか救急患者を受け入れてくれる病院がなく、小一時間かかってようやく引き受け先が決まり、ご家族と救急に向かっていただきました。

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 一月ほどたって、先方の病院から届いた紹介状の返事には [診断: 大腸癌・肝肺多発転移、肝腫大] との文字がありました。

 思い返すと胸部写真では全く腫瘍影はわからず、咳が主訴だったため、おなかの症状はあまり詳しくうかがいませんでしたが、腹痛や血便の訴えはなかったようでした。

 大腸癌の早期診断には間に合わなかったことが非常に残念ですが、当院受診時に横隔膜が拳上していたことに気づいた時点で腹部エコーを行っていたら、わずかながらでも診断が早かったかもしれないと思いました。

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 一つの病気で医者にかかっていても、検査を受けていただかなければ全身に起きてくる病気を予防・早期発見することは不可能に近いとかねがね感じています。

 開業後、当院に通院中の患者さんには、できるだけドック・検診を受けていただくようにお勧めしていますが、しばらくそのような検査を受けていない方には、症状に応じた検査(採血の他に胸部レントゲン写真、心電図、胃カメラ・腹部エコー、便潜血など)をできるだけ早期に行っております。

 大概は異常なしで空振りですが、それでお互い安心できます。

 それにつけても、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病だけで通院中の方に、重大な病気が隠れている可能性を目の前に突き付けられ、開業医の外来の日常診療には細心の注意が必要と再認識させられました。

 町医者は風邪にまぎれた 『 重病 』 を探し出さないといけない、とおもうと身が引き締まる思いがしました。

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